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第15回 拒絶査定、そしてガールズグループMOONCHILD解散!!


LDHの「MOON CHILD」商標出願が拒絶される

 LDHによる「MOON CHILD」商標出願に対して、国内の有名なバンドと名称が被ることを理由に特許庁から拒絶理由通知書が発出されたことについては、第13回「LDHの「MOON CHILD」商標出願に2度目の拒絶理由通知書が発出される!」で解説したとおりです。特許庁の拒絶理由通知書に対し、意見書を提出して反論することができたのですが、LDHはそれをしませんでした。そして意見書を提出しないまま期限が経過し、2024年1月4日、特許庁から拒絶査定が下されました。

「MOON CHILD」商標出願に対する審査の経過

 LDHが意見書を提出しなかった理由には2つ可能性があると筆者は考えます。
 1つめの可能性は、この時点で(少なくとも独占的な)名称使用を諦めたから。2つめは、意見書を提出しても時間を浪費するだけであり、さっさと拒絶査定を受けて、次の審判請求へ突入する方が効率的であると考えたからという可能性です。


LDHが拒絶査定後に採り得た手段は・・・

 拒絶査定を受け、それに不服がある場合は、3か月以内に特許庁長官に審判を請求することができます(商標法44条1項)。審判が請求されると、拒絶査定をした審査官とは別の審判官(合議体)が拒絶査定が妥当であるか否かを審理することになります。

 LDHが「MOON CHILD」の商標を登録するには、「バンドのMOON CHILDは有名ではない」と意見書で主張する必要がありました。もちろん、そのような主張をしても認められる可能性は極めて低いと思われます。

 しかし、審判まで持ち込んだ場合、統計上は、認められる確率が非常に高くなります。拒絶査定不服審判事件における請求成立率は79%となっており、審判までやればおよそ5件の内4件は請求が認められているからです(特許行政年次報告書2023年版より)。

 そのため、意見書を提出するより、あえて拒絶査定をもらって審判に場を移した方が有利であるとLDHが判断する可能性があると思われました。審判でも請求が認められなかった場合には、次は裁判所(知的財産高等裁判所)へと舞台を移して判断を仰ぐこともできます。

 とはいえ、筆者らがバンドのMOON CHILDが有名であることを裏付ける多くの資料を特許庁へ提供していますので(LDHの代理人は筆者らが提供した情報の内容を閲覧し把握しています)、たとえ審判、訴訟へ持ち込んでも請求が認められることは難しいと思われますが・・・。

 審判請求の期限は3か月後の4月上旬。筆者は、審判に移行するのかしないのかを静観していたところでした。

2024年4月24日、電撃的な解散発表!!

 そのような状況の中、2024年4月24日、ガールズグループ「MOON CHILD」が4月30日に解散するとの発表が突然ありました。

LDHからの解散のお知らせとプロデューサー登坂さんのコメント

 解散を報じるネットニュースにはたくさんの読者コメントが投稿されました。ニュースサイトの利用者の年齢層が高いせいもあると思うのですが、コメントのかなりの割合を「MOONCHILDってバンドじゃないのか」、「知ってるMOON CHILDと違う」という趣旨のコメントが占めており、残りは「LDHはガールズグループを育てられない」という趣旨のコメントでした。

 
 そして解散の日である4月30日
の昼頃、ガールズグループMOONCHILDの公式XがすべてのSNSアカウントを閉鎖すると告知し、その日の夜、あっという間にYouTube以外のすべてのコンテンツが削除されたのです。

レコード会社ソニーミュージックのウェブサイトも閉鎖された


 筆者はこの1年間この商標問題の分析と発信を続けてきており、ガールズグループには改名してもらいたいと思っていましたが、決してこのような結果を望んではいませんでした。ガールズたちの無念や、ファンの方たちの心痛を思うといたたまれない思いです。

 解散に至った理由は様々な複合的なものであると推察されます。特に主要メンバーのルアンさんが指導者のパワハラを理由とするメンタル不調に陥ったことが大きかったのだと思いますが、それでもこの名前でデビューしなければ、あるいは批判を受け入れて早期に改名していれば、異なる結果が待っていたかもしれないと思うと残念でなりません。

 このような急速な展開の後、名前被り問題は予想外の決着に至りましたが、それにしてもLDHがどうしてこの名前にこだわったのかが疑問です。年月が経てば、プロデューサーの登坂広臣さんからその理由が語られる日が来るのでしょうか。

 なお、特許情報プラットフォームへの反映はもう少し後になると思われるため、拒絶査定が確定したかどうかを筆者はまだ確認できていません。商標の出願は特定の個人やグループと紐づいておらず、ガールズグループの解散とは理論上別問題ですので、筆者は最後まで状況を見届けたいと思います。

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